東京地方裁判所 平成元年(行ク)22号 決定 1989年7月07日
申立人
中央労働委員会
右代表者会長
石川吉右衛門
右指定代理人
荻澤清彦
外三名
申立人補助参加人
国鉄労働組合東京地方本部
右代表者執行委員長
佐藤智治
申立人補助参加人
国鉄労働組合東京地方本部
八王子支部
右代表者執行委員長
新井重雄
申立人補助参加人
国鉄労働組合東京地方本部
八王子支部新宿車掌区分会
右代表者執行委員長
谷合和雄
補助参加人ら代理人弁護士
宮里邦雄
同
海渡雄一
同
中光弘治
同
渡辺正雄
同
岡田和樹
同
志村新
被申立人
東日本旅客鉄道株式会社
右代表者代表取締役
住田正二
右代理人弁護士
茅根煕和
同
春原誠
主文
一 被申立人は、被申立人を原告、申立人を被告とする当裁判所平成元年(行ウ)第三四号不当労働行為救済命令取消請求事件の判決確定に至るまで、申立人が中労委昭和六三年(不再)第一四号事件について発した命令によって維持された東京都地方労働委員会昭和六二年(不)第四六号事件の昭和六三年二月一六日付け命令の主文第1項に従い、田中博を内勤の運転担当に復帰させなければならない。
二 申立人のその余の申立てを却下する。
理由
一本件申立ての趣旨及び理由は別紙記載のとおりである。
二1 本件申立事件及び本案事件(当裁判所平成元年(行ウ)第三四号不当労働行為救済命令取消請求事件)の記録によれば、主文掲記の申立人が発した命令中、東京都地方労働委員会の昭和六三年二月一六日付け命令主文第1項を維持した部分は、その適法性について、現時点において重大な疑義を認めることができないから、一応適法かつ有効なものと見るべきである。
2 そこで、緊急命令を発する必要性について検討する。
本案事件の記録及び本件疎明によれば、主文掲記の東京都地方労働委員会の命令の主文第1項は、被申立人が申立人補助参加人国鉄労働組合東京地方本部八王子支部新宿車掌区分会所属の田中博に対し、内勤の運転担当車掌から電車乗務車掌へ担当業務の指定替えをしたことが労働組合法七条一号及び三号に該当する不当労働行為であると認めて、被申立人に対して、右指定替えを撤回し、田中を原担当職に復帰させることを命じたものであるところ、被申立人は右救済命令に従っていないこと、これによって、申立人補助参加人国鉄労働組合の団結及び活動に不都合が生じていることが一応認められる。
右によれば現時点において田中を原担当職に復帰させることが、申立人補助参加人国鉄労働組合の団結権を保障し、正常な労使関係を回復するために必要であると認められるから、主文掲記の東京都地方労働委員会の命令の主文第1項に従い、田中を原担当職に復帰させる緊急命令の必要性を肯定することができる。しかし、田中に対する担当業務の指定替えの処分自体の撤回をも命じることは、緊急命令制度の趣旨、目的からして、その必要性がないというべきである。
三次に、主文掲記の東京都地方労働委員会の命令の主文第2項は、申立人に対し、将来の不当労働行為を事前に禁止するもので、いわゆる抽象的不作為命令であるところ、前記二のとおり田中を原担当職に復帰させるべきことを命じても、なお同項掲記の行為と類似した行為が将来反復してされる蓋然性が高く、右不作為についても実効性を持たせる必要性がある事情についての疎明は十分でない。したがって、右命令の主文第2項について、少なくとも、本案判決確定前に緊急命令の必要性があるとは認めることができない。
四よって、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官相良朋紀 裁判官長谷川誠 裁判官阿部正幸)
別紙
申立ての趣旨
被申立人を原告、申立人を被告とする当裁判所平成元年(行ウ)第三四号不当労働行為救済命令取消請求事件の判決確定に至るまで、申立人が中労委昭和六三年(不再)第一四号事件について発した命令によって維持するものとした東京都地方労働委員会がした昭和六二年(不)第四六号事件の昭和六三年二月一六日付け命令の主文第1項及び第2項に従い、
1 被申立人は、国鉄労働組合東京地方本部八王子支部新宿車掌区分会所属の田中博に対し、昭和六二年六月八日付けで行った内勤の運転担当から電車乗務への指定替えを撤回し、内勤の運転担当に復帰させなければならない。
2 被申立人は、右分会所属の組合員に対し、国鉄労働組合に所属している限りは担当業務の不利益な指定変更があり得る旨の言動を行ってはならず、また同組合に所属していることを理由としてそのような担当業務の指定変更を行ってはならない。
申立ての理由
一 申立外国鉄労働組合東京地方本部、同国鉄労働組合東京地方本部八王子支部、同国鉄労働組合東京地方本部八王子支部新宿車掌区分会は、1 被申立人が、申立外分会員田中博を内勤の運転担当から電車乗務へ担当業務の指定替えをしたこと、2 被申立人の新宿車掌区助役が、申立外分会員らに対し、申立外組合を脱退しない限り担当業務の不利益な指定替えをする旨の発言をしたことがそれぞれ不当労働行為に当たるとして、昭和六二年六月二二日東京都地方労働委員会に救済を申し立てた。
同委員会は、右申立てについて、東京地労委昭和六二年(不)第四六号事件として審査の結果、昭和六三年二月一六日付けで申立ての趣旨の1及び2を含む命令を発した。
二 被申立人は、右命令を不服として、昭和六三年三月一一日申立人に再審査を申し立てた。
この申立てについて、申立人は、中労委昭和六三年(不再)第一四号事件として再審査の結果、昭和六三年一二月七日付けで右審査申立てを棄却するとの命令を発し、右命令書は昭和六三年一二月二八日被申立人に交付された。
三 被申立人は、平成元年一月二六日、右命令の取消しを求める旨の行政訴訟を提起し、当裁判所平成元年(行ウ)第三四号として現在審理中である。
四 申立人が右再審査命令の履行状況を調査したところ、被申立人は、その回答書において、初審命令主文を任意に履行する態度を示していない。そして、初審命令主文第1項が本案行政訴訟事件の判決確定まで履行されないときは、被申立人によって侵害された申立外組合の団結権及び申立外田中の業務上の不利益は回復することが困難なものとなる。また、本件労使関係に徴すると、被申立人が申立外国鉄労働組合に所属している限りは担当業務の不利益な指定変更があり得る旨の言動を行い、また申立外組合に所属していることを理由として、そのような担当業務の指定変更を行うことを、初審命令主文第2項により、将来にわたり予め防止しておくことが必要である。
さらに、申立外組合からは、緊急命令を申し立ててもらいたい旨の要請書が提出されている。
五 したがって、申立人は以上のように初審命令主文が履行されない状態がそのまま存続するならば、労働組合法の立法精神が没却されてしまうことになるので、平成元年三月一日開催第一〇四九回公益委員会議において、労働組合法二七条八項の規定に基づき、本件申立てを行うことを決議した。
よって、本件申立に及んだ次第である。